易占機考

六十四卦の字源[上 經]
下 經
●以下は、古漢語字典である全訳「漢辞海」第二版(戸川 芳郎 監修/三省堂 刊)を基本にした。
●卦である語[A]とは同字異語にあたるものを[B]とした。それぞれに品詞に別けた。

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■1【乾】
  剛健さをもってあらゆることがらが積極的に展開する象。
[A][名]●北西。●(八卦の方位から)天。
[B][動]●すっかりなくす。かわかす。ほす。
[形]●かわく。(ア)かわいたさま。(イ)涸渇したさま。ひからびたさま。●むなしい。●名義上、形式上の。●うわべの。
[字の ナリタチ]高く伸び出る。「乙」から構成され、「乙」は物が届くことであり、「乾の乙のない字 = 日が輝き出す」が音。
「乾乾」自分で努力して怠らないさま。うやうやしいさま。
 
■2【坤】
  従順さであらゆる事柄を受け入れることにより大いに順調にゆくことの象。
[名]●西南。●大地。つち。
[形]●女性の、陰性の。
[字の ナリタチ]大地である。「土」「申」から構成される。「土(=【坤】)」の方位は「申(= 西南)」にある。(地の象徴である)【坤】は「順」ということである。(「乾坤」というように)上から天の象徴である【乾】を順(ウ)ける。
 
■3番【屯】
  険難でゆきなやむ時であるので、君子は世を治め救う象。
[A][名]●困難。苦難。
[B][名]●たむろ。(ア)軍隊が駐屯する所。(イ)多く人が寄り集まる所。●村落。むら。●おか。小山。
[動]●たむろす。(ア)寄り集まる。多くものが一か所に寄りとどまる。(イ)駐屯する。守りのためにとどまる。
[字の ナリタチ]困難。草木の芽生えはじめの際に、曲がって難儀するようすに象(カタド)る。「屮(= 草木の芽)」が「一」を貫くさまから構成され、「一」は大地であり、尾部が曲がる。「易」に「【屯】は剛の陽気に柔の陰気とがはじめて交わって困難が生じた」という。
 
■4番【蒙】
  物事にくらいことを表す象。
[A][名]●ヒルガオ科のつる性の一年草。他の植物にからみついて寄生し、根は消失する。菟糸(トシ)。●覆いかくすもの。覆い。●子ども。[形 →]無知。無知な人。愚者。
[動]●おおう。(ア)かぶせる。(イ)覆いかくす。(罪を)かばう。(ウ)あざむく。●こうむる。(ア)(恩や教え、または災害を)受ける。(イ)受けつぐ。●物ともせず押しのける。おかす。
[形]●無知なさま。おろかなさま。物事にくらい。くらい。
[代]●わたし(謙遜の自称)。
[B][名]●「蒙古」の略。
[字の ナリタチ]大きな蘿(ジョラ = ひかげのかずら)。「艸」から構成され、「蒙の草冠がない字」が音。「蒙」は太陽光が明るくなく蒙蒙(= ぼんやり)としたさまである。
 
■5番【需】
  いかなる事態にあっても待てば通じる象。
[名]●必要な物。もとめ。●[動 →]進まないで、ためらうこと。ためらい。
[動]●待ちうける。まつ。●必要とする。もとめる。●迷って進めない。ためらう。
[形]●気が弱い。よわい。
[字の ナリタチ]待つ。「雨」に遭遇して進めず、止まってまつ。「雨」から構成され、「而」が音。雲が天に昇(って雨にな)る時はまつ、という。
 
■6番【訟】
  物事が行き違って争いうったえる象。
[名]●裁判。うったえごと。うったえ。
[動]●うつたえる。(ア)裁判をおこす。(イ)無実を弁じる。弁明する。●是非を論じ合う。あらそう。●欠点などをとがめる。せめる。●称揚する。たたえる。
[副]●明白に。公然と。おおやけに。
[字の ナリタチ]争う。「言」から構成され、「公」が音。歌頌(= ほめたたえる歌をうたう)の意ともいう。
 
■7番【師】
  民衆を安んじることで軍隊を蓄え備える象。
[名]●周代、軍隊の編成単位。「旅」の五倍で 2,500 人。●軍隊。●先生。模範となる人。●模範。●専門的に特定の職域・職能をあつかう官。「楽師」「卜師」。●軍師。●工芸・技術などに優れた技能のある人への呼称。「画師」「水師」。●僧に対する尊称。●衆人。大衆。もろもろ。●猛獣のシシ。
[動]●[名 →]師事する。●模範とする。まねる。ならう。
[字の ナリタチ]2,500 人を一師とする。「師の旁」と「師の偏」から構成される。「師の偏」と四周が「師の旁」であるのは衆多の意である。
 
■8番【比】
  地面に水がなじむように、したしむ象。
[A][名]●周代の戸籍の編成単位で、五家を「比」とする。五人組。
[動]●ならぶ。ならべる。●近づきしたしむ。●くみする。●すくう。助ける。
[形]●密集している様。●となりあっている様。ちかい。●いつもの。すべての。
[副]●さきに。●みな。ならびに。●ちかごろ。このごろ。●連続して。しきりに。
[B][名]●先例。きまり。ためし。●同類。なかま。ともがら。たぐい。
[動]●くらべる。●ならう。
[字の ナリタチ]親密である。二つの「人」は「从(シタガウ)」となり、「从」を反転したものが「比」となる。五軒の家を「比」ともいう。親比しあうのである。
「比比」●しばしば。つねづね。しきりに。●どれもみな。どこでもすべて。●どこでもある。いつでもある。常に存在しているさま。
 
■9番【小畜】
  君子にとっては小枝である文章などの学問を蓄積して時機を待つ象。
【畜】
[A][動]●集積する。たくわえる。●禽獣を飼育する。かう。●扶養する。やしなう。●受け入れ許す。いれる。●とどめる。●このむ。
[B][名]●鳥や獣。特に家畜となっている禽獣。
[字の ナリタチ]耕作による蓄積。「玄」と「田」で「畜」とする、という。
 
■10番【履】
  強く履行し、上下の秩序をはっきりさせて民を安定させる象。
[名]●領土。●履物。靴。●幸福。
[動]●ふむ。(ア)足の裏で踏み付ける。(イ)実行する。(ウ)職に就く。位に昇る。?経る。通りすぎる。(エ)経験する。●靴をはく。
[字の ナリタチ]足が依存するもの(履物)。「尸(= からだ)」「彳(= いく)」「夊(= いく)」から構成され、「舟」は履物の形に象(カタド)る。一説に、「尸」は音という。「履」は足で履むので、そう名づけられた。「履」は「礼」である。足を飾って礼をなすものである。

 
■11番【泰】
  天地が交じり合い、物事が大いに通じ順調な象。
[名]●順調さ。幸運。●おごり。(ア)行き過ぎ。誇大。(イ)分に過ぎること。過分。●酒器の名。舜時代の陶製のさかだる。●泰山。
[動]●通じ達する。とおる。
[形]●極めて大きい。おおきい。おおいなり。●最も極まったさま。●おごる。(ア)おごりたかぶるさま。(イ)ぜいたくである。●平穏である。ゆったり落ち着いている。やすい。やすらか。●おおまかである。ゆるやか。
[副]●非常に。はなはだ。
[字の ナリタチ]なめらかに滑る。「廾(= 両手で水をくむ)」「水」から構成され、「大」が音。
 
■12番【否】
  天地が交わらずに背離するのであるが、徳をつつしむことで難を避ける象。
[A][動]●非難する。●通じない。きわまる。ふさがる。
[形]●悪い。よくない。●いやしく見聞が狭い。
[B][副]●いな。しからず。しかせず。
[助]●いなや(疑問を表す)。
[字の ナリタチ]打ち消し。「口」「不(= 打ち消し)」から構成される。「否」は「鄙」。鄙劣で(= 劣っていて)忍耐強く成し遂げることができないのである。
 
■13番【同人】
  人と和同するとともに、異なる物事をきちんと弁別する象。
 
■14番【大有】
  火が天の上にあって大いに照らし、悪をとどめて善を明らかにする象。
【有】
[動]●たもつ。ある。(ア)持つ。そなえる。(イ)占有する。手に入れる。(ウ)統治する。おさめる。●ある。(ア)物事が存在する。(イ)ある事情が出現したり発生したりする。(ウ)文脈に初めて登場する人や物を主題として提示する。●親しく交わる。したしむ。●〜である。〜とみなす。たり。
 
■15番【謙】
  へりくだってすなおに受け入れる象。
[名]●へりくだった態度。謙虚さ。
[形]●つつしみ深くへりくだった様。へりくだる。
[字の ナリタチ]敬う。「言」から構成され、「兼」が音。
「謙謙」へりくだって相手を尊ぶさま。
 
■16番【豫】
  謙虚であることによって志がむくわれて楽しいことの象。
【豫】[名]●豫州。古代、九州の一つ。●河南省の別称。●[動 →]あそび。
[動]●あそび楽しむ。遊覧する。たのしむ。●あらかじめ準備する。事のまうに備える。●いとう。はばかる。●参加する。かかわる。あずかる。●懸念する。ためらう。●(客を)だます。掛け値をいう。●なまける。おこたる。
[形]●心が安らかなさま。
[副]●物事が起こらない内に。前もって。あらかじめ。かねて。
【予】[A][代]第一人称。(ア)私。われ。(イ)私の。わが。
[動]●授ける。たまう。あたえる。●よいと認める。称賛する。ゆるす。
[字の ナリタチ]【豫】(物を)推し出し与える。(物を)与えあう形に象(カタド)る。
【予】象の大きいもの。賈(カ)(逵 キ)侍中は「(大きな象でも)物をそこなわない」という。「象」から構成され、「予」が音。
 
■17番【隨】
  すぐれた対象に虚心に従う象。
[名]●足。●周代の諸侯国。今の湖北省の隨県にあった。春秋晋の地名。今の山西象にあった。
[動]●したがう。(ア)後からついて行く。伴いゆく。(イ)沿う。(ウ)追求する。おう。(エ)ある基準のとおりにする。(オ)放任する。まかせる。
[副]●すぐに。ただちに。即座に。したがって。
[字の ナリタチ]従う。「走と似た字(= 行く)」から構成され、「橢の木偏が手偏の字」の省略形が音。
 
■18番【蠱】
  すべてが崩壊したあとに君子が民衆を救濟する象。
[名]●むし。●先人のし残した仕事。事柄。
[動]●惑わす。●毒薬で人を殺す。
[字の ナリタチ]腹の中の虫。「蟲」「皿」から構成される。「皿」は有用なものである。
 
■19番【臨】
  進み迫って民を教化して民を安んじる象。
[A][名]●戦車の名。臨車。
[動]●のぞむ。(ア)高いところから下を見る。見下ろす。(イ)いたる。(ウ)近づく。(エ)向かいあう。●模写する。●高い身分の人が来訪する。
[前]●ちょうど・・・にあたって。まもなく・・・しようとする。のぞみて。
[B][動]●(民衆が葬礼に出て)声を上げて泣く。
[字の ナリタチ]かがんでよく見る。「臥(フセ)る」から構成され、「品」が音。
 
■20番【觀】
  民衆の風俗を見て教えを設ける象。
[A][名]●景色。ながめ。●物事に対する見方・態度。
[動]●みる(見比べて考える意)。観察する。考察する。●みる(対象物を見る)。(ア)ながめる。(イ)鑑賞する。めでる。●みる(遊歴する)。(ア)遊覧する。あそぶ。(イ)遊学する。●顕示する。あらわす。しめす。
[B][名]●宮廷の門前にある高い台。ものみ。●宮廷の中の楼台などの建物。●道教の廟。「仙」を祭る道教寺院(「廟」は「神」を祭る一般的なみたまや。「寺」は「仏」を祭る仏教寺院。漢代以前は、「観」は見晴らし台、「寺」は官庁、「廟」は祖先を祭るみたまや)。
[形]●多い。
[字の ナリタチ]つまびらかにみる。「見」から構成され、「觀の旁」が音。●「観」は「翰」。望むときは頸をのばして翰翰(= 高く挙げるさま)としているのである。●建物の「観」は「観る」。上から観望するのである。

■21【火雷噬嗑】
  口の中の物をかむ、あるいは物をかみ合わせる象。
[名]●(世の中の物資や品物を市場に)集合させて交易させる。
【噬】
[動]●かみつく。かむ。●侵害する。おかす。
[助]●文のリズムをととのえることば(文頭に置き、実質的な意味はないが〜)。
[字の ナリタチ]かむ。あえぐ。「口」から構成され、「筮」が音。
【嗑】
[A][動]●ぺらぺら話す。●(近)歯で殻のある物や硬い物をかみ割る。
[B][動]●閉じ合わせる。あう。●(近)飲む。
 
■22番【賁】
  剛と柔が交わりあってあやのある象。
[A][名]●美しい飾り。
[動]●美しく飾る。かざる。
[B][動]●はしる。●いきどおる。
[C][形]●おおきい。おほいなり。
[字の ナリタチ]飾る。「貝」から構成され、「卉」が音。
 
■23番【剥】
  山が地表まで削られるが、下層に対して手厚くすれば安泰である象。
[A][動]●はげる。はぐ。●削る。さく。●そこなう。きずつける。●皮を取り去る。はぐ。
[形]●巡り合わせが悪いさま。← 彖辞
[B][動]●たたく。うつ。
[字の ナリタチ]切り裂く。「刀」「剥の旁」から構成される。「剥の旁」は刻み、割る意。「剥の旁」は音でもある。
「剥剥」足音、戸をたたく音、碁をうつ石の音など。
 
■24番【復】
  ふたたび再起する気運をもち、しばらく安静にすごす象。
[A][動]●かえる。●もとの状態に戻す。かえす。●報告する。つげる。もうす。●回答する。こたえる。●仕返しする。むくいる。●年貢や夫役を免除する。のぞく。●実践する。ふむ。●同じことをくり返す。●もう一度する。重ねる。●滅ぼす。くつがえす。●おおう。●横穴の土室を掘る。
[B][副]●また。(ア)もう一度(同一の作業・状況が再度くり返される意)。(イ)さらに(ある状況が継続したり、より深化する意)。(ウ)それに。かつ(別々の二種類の状況が同時に存在する意)。(エ)いったいどうして(反語の語気を強める)。
[字の ナリタチ]行ってもどって来る。「走に似た字(= 歩く)」から構成され、「[一口口攵]」を縦に並べた字が音。
 
■25番【无妄】
  いつわりのない真理をもって万物を生み出す象。邪心のないさま。
[形]●思いがけない。不測の。●必然の。
【无】
[動]存在しない。ない。
[字の ナリタチ]「无」=「無」。
【妄】
[形]●でたらめなさま。中身のないさま。●凡庸な。才能がないさま。
[副]●みだりに。(ア)でたらめに。むやみに。(動作や行為の軽率さを表す)(イ)かってに。分を越えて。(ウ)傲慢にも。
[字の ナリタチ]とりみだす。「女」から構成され、「亡」が音。
 
■26番【大畜】
  先人の言行を多く知り、自己の徳を蓄積する象。
【畜】→【小畜
 
■27番【頥】
  人を養う意で、ことばを慎み、食事を節して徳をも養う象。
[名]●ほほを含む下あご。おとがい。
[動]●保養する。やしなう。
[字の ナリタチ]あご。象形。「頥」は篆文の「臣」。「頥」は「養」で、下に動いて上に止まり、上下で物をかんで人を養うのである。
 
■28番【大過】
  独立独歩の立場をとって、世間から身を隠した生活をするなど大いに過ぎた行いをしても後悔しない象。
【過】
[動]●すぎる。(ア)通る。(イ)(時が)すぎ去る。(ウ)超越する。こえる。しのぐ。●訪ねる。たちよる。よぎ。●時間をついやす。すごす。●人に物をわたす。あたえる。●やりそこなう。あやまる。あやまつ。●とがめる。せめる。
 
■29【坎】
  重なる険難はあるが、真実をもって行動すればうまくいくこともあることの象。
[名]●あな。(ア)くぼみ。特に、祭礼を行うために掘った穴。(イ)墓穴。●つぼ形の酒器。
[動]●[名 →]穴をほる。墓穴をあける。ほる。
[擬]●物を打つ音。
[字の ナリタチ]くぼむ。「土」から構成され、「欠」が音。【坎】の卦は「険(= 険難)」。
「坎坎」●この上なく険しく、困難が続くさま。●からっぽのさま。●よろこぶさま。●腹がたち、がまんできないさま。
 
■30【離】
  柔順の徳をもって中正につけば万事がみな調和する象。
[A][名]●コウライウグイス、●明かり。太陽と月。●女性が嫁入りするときに着けた佩(オ)び布。●籾が地に落ち、翌年 生え出した稲。落ち籾。●南。
[動]●はなれる。はなす。(ア)一つのものから分かれる。(イ)分散する。(ウ)開く。(エ)そむく。(オ)切り取る。●二つのものが並ぶ。ならぶ。●陳列する。つらねる。●経過する。へる。●遭う。こうむる。罹る。
[形]●別れにかかわるさま。●ほかの所にあるさま。よその。
[B][動]●付着する。つく。
[字の ナリタチ]離黄は倉庚(= うぐいす)である。鳴く時期には蚕が生まれる。「隹(= とり)」から構成され、「離のつくり」が音。「離」は「麗」である。物みな陽の気に附着して茂るのである。
「離離」●穀物や果物が盛んに実り、垂れ下がっているさま。●草木の盛んに茂るさま。●順序よく並ぶさま。●広大・広遠なさま。また、空しいさま。●明らかなさま。鮮やかなさま。●憂い悲しむさま。●孤独なさま。

下 經
 


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