易占機考

●情報の整理を兼ねて、易学・占筮に関する有用な文献を纏めています。
 


立命の書「陰隲録」を読む(致知選書)
2008/ 4/15
 「陰隲録(インシツロク)」と読む。「陰」とは冥々の作用。「隲」とは定めるの意味で、運命の中にある法則に従ってどのように生活をして行くか、悩める者なとをどのように救濟するかということ。「陰隲録」は運命は宿命に非ず、成り行きに任せずに立命して[志を立てて]生きることが人の生き方だと教える。
 明代の袁 了凡が晩年に我が子のために以下の教訓を書いた実録。

*     *     *

 
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  安岡 正篤 著
竹井出版 刊
232 ページ
ハード カバー
再装丁 1990/ 2 ← 初版 1984(運命と立命 ― 陰隲録の研究)
1,575 円(税込)
 
 貧しかった袁 了凡は生計を立てるべく医師になる勉強をしていたが、ある日、孔と名乗る老翁が訪ねて来て「君は官吏になる人で、来年から科挙の学問に進む運命だ。どうして勉強しないのか」と言う。老翁は後生 名を残す人物がここにいると占いで知り、はるばる雲南からやって来たものらしい。そして、袁は老翁の修めた宋代の邵 康節の「皇極経世」の理法で身の回りを占ってもらうと全てその通りだったので強く感じ入り、本来の志望だった進士(= 中央の最高級官僚)を目指すべく一念発起したのだった。すると、占示の通り、初期の県・府・道の各試験に14番・7番・19番の成績で合格してしまう。
 それならというので、再び老翁に自分のその後の生涯を占ってもらうと、本試験の内の何々の試験には禄米が幾らの時に何番で合格するということや、いつ・どういう出世をし、いつそれを辞して国に戻り、さらに、53歳で天寿を全うし、子供には恵まれないことなどが示された。そして、またしてもことごとくその通りに物事が進んで行ったのだった。そこで、袁は自分の人生はもう天によって定められている。いらぬ努力をしても無意味だと諦観し、宿命論に陥って行った。

 長じて、袁は南京の棲霞山中に雲谷禅師を訪ねた。三昼夜 心を動かさず静座する袁に禅師は驚き「人が聖人となり得ない理由は妄念が付きまとうからだが、あなたに妄念を一つも見ないのは如何なるわけか」と尋ねた。そこで、袁はしかじかの経緯から宿命を信ずるようになったので妄想を起こすにも起こす妄想がないと告白。すると、雲谷禅師は「何だそんなことか」とガラリと軽蔑の態を見せるようになった。
 袁がそのわけを問うと、禅師 曰く「お前さんは20年この方、他人から占定されて少しも変化しなかったというのは凡人でなくて何であるか」と。袁は「本当の運命とは我より立つる立命でなければならぬ」という道理を懇々と教えられる。その問答では、袁が「道徳仁義は自分の心に内在することだから努力して求めることは出来るが、「巧妙富貴のような自分自身の外にあるものはどうして求めることが出来るか」と心の内と外の事柄の因果関係について問えば、禅師は「全ては外に向かってではなく、自分を省み、自分の心に向かって得ようと努力することによって得られる」とイマイチ的を得ない答え方をするのだが、ともかく、袁は翻然として反省、大悟して生まれ変わる。名前も凡を了(エオ)える、と改めた。

 袁の立命とは具体的には、禅師の示した功過格を行うこと。これは12世紀に道教で始まったもので、善悪の基準を書いた功過格表に従って、我が身を顧みずに人の命を救えばプラス 100、他人の悪口を言えばマイナス10のように日々 記録。袁は、差し引きで三千の陰徳を積むことで子供を授かるべく、さらに、一万で科挙の本試験に合格すべく志を立て、天に願い、ひたすら努めて実行することにした。この陰隲思想ではどこに居ても常に神に観られているように畏れ、自己の行動を慎むことになる。それが健全な生き方かどうかはここでは捨象。
 ともかく、それ以後は老翁に占定されたことが外れて行き、本試験には占示より上のトップで合格し、授からないと言われた子供が生まれ、74年の生涯を送る、ということになったのだった。

*     *     *

 この本は学生運動 騒々しき頃に行った講義(昭和43/ 3〜44/ 9)を纏めたもの。原文はなく、書き下し文に解説を加える。解説は始めの三分の一を過ぎると脱線余話が多くなる。
 「運命とはどんなものか、易を学ぶ目的は結局 何なのか」を考えるに資するかとこの本を採り上げた。



易 占 余 話
2008/ 4/ 9
 これは易の本やら何の本やら。楽しい茶話集。易の哲理の深いところに触れていたかと思えば、気を許すとシモの方の話になって、専らそちらが長い。あれこれ数十年前の見聞を広めたい人のために。

 
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  ●田畑 大有 著
●文宣堂書店 刊
●初版 1964/ 4(絶版)
●286ページ
●ソフト カバー
●280 円(税抜)
 出版元もそれぞれの、田畑 氏の第6冊目のエッセー集。長い易者生活の間に「これは!」と思う出来事をずっとメモして来て、この本もその数千の話から拾い集めたものという。36話を収める。
 60年間【天雷无妄】の一卦だけでお客の相手をしていた老易者の話から、易を越えて、ご自身の専門の一つである手相に、体中の「穴相の占い」なんていう話題も出てくる。エッセー第一作の「うらない随筆」(近代社 刊、1956/ 2)から話が専らそっちで、“刀巴心青”の方面の人かと思ったぐらい。
 他のエッセー集と同様、易占の解釈・解説といったものは殆ど書かれていない。

 田畑 大有 氏は明治19年生まれ。易占の世界では高名な先生で、朝日新聞の「易断による身の上相談欄」も担当されていた。昼間は上野の図書館に通い詰めて周易の背景的文献を研究し、帰宅すると、隣室の奥さんに手伝ったもらって、射覆で続けて5回 的中するまでは寝ないという訓練を3年間 続けた、という修行話は有名。故に、人の生死に関わる一度の占を除いて、一生の内に易断を外したことがない、とおっしゃったのも頷ける。射覆は易者修行の必須科目。
 この本には「中国に遊ぶこと12年」とあり、易の翻訳書「邦文易経」(文宣堂 刊/1964)も出されるだけ漢籍に通じた方だったようだ。この本を執筆していた頃には易者生活50年。家相・人相・手相も能くしていた。苦労人で、村夫子然とした方だったという。



易 と 日 本
 
 
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7&Y
 
【陰陽五行】
■「現代に息づく陰陽五行」稲田 義行 著、日本実業出版社 刊、初版 2003/ 3
■「茶の湯と易と陰陽五行」関根 宗中 編集、淡交社 刊、初版 2006/ 2

【吉野民俗学】
■「陰陽五行と日本の文化 ― 宇宙の法則で秘められた謎を解く」吉野 裕子 著、大和書房 刊、初版 2003/ 3
■「易・五行と源氏の世界」吉野 裕子 著、人文書院 刊、初版 1999/12
■「陰陽五行と日本の天皇」吉野 裕子 著、人文書院 刊、初版 1998/ 3
■「ダルマの民俗学 ― 陰陽五行から解く(岩波新書)吉野 裕子 著、岩波書店 刊、初版 1995/ 2
■「十二支 ― 易・五行と日本の民俗」 吉野 裕子 著、人文書院 刊、初版 1994/ 7
■「神々の誕生 ― 易・五行と日本の神々」吉野 裕子 著、岩波書店 刊、初版 1994/ 4
■「五行循環」吉野 裕子 著、人文書院 刊、オンデマンド版 2003/12 ← 初版 1992/ 3
■「山の神 ― 易・五行と日本の原始蛇信仰」吉野 裕子 著、人文書院 刊、オンデマンド版 2004/11 ← 初版 1989/ 8
■「陰陽五行と童児祭祀」吉野 裕子 著、人文書院 刊、初版 1986/ 6
■「易と日本の祭祀 ― 神道への一視点」吉野 裕子 著、講談社学術文庫 2008/ 8 ← 人文書院 刊、オンデマンド版 2003/12 ← 初版 1984/11
■「陰陽五行と日本の民俗」吉野 裕子 著、人文書院 刊、1983/ 6
■「狐 ― 陰陽五行と稲荷信仰(ものと人間の文化史 39)」吉野 裕子 著、法政大学出版局 1980/ 1
■「陰陽五行思想からみた日本の祭 ― 伊勢神宮祭祀・大嘗祭を中心として」吉野 裕子 著、人文書院 刊、;新装復刊版 2000/10 ← 1978/ 6
■「隠された神々 ― 古代信仰と陰陽五行」吉野 裕子 著、人文書院 刊、オンデマンド版 2003/12 ← 初版 1975/ 1
■「日本古代呪術 ― 陰陽五行と日本原始信仰」吉野 裕子 著、大和書房 刊、増補版 1975 ← 初版 1974 、絶版

 
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【日本文学に見る易】
■「占いの原点『易経』」梶川 敦子 著、青弓社 刊、初版 2008/ 2
■「記紀と易経(ぶんりき文庫)」西 孝三郎 著、彩図社 刊、初版 2002/11
■「易占と日本文学(教養シリーズ)」山本 唯一 著、清水弘文堂 刊、初版 1976/ 5、絶版

■「聖書と易学 ― キリスト教二千年の封印を解く」、水上 薫 著、五月書房 刊、初版 2005/ 4

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そ の 他 の 随 筆
 
■「隠すれど色に出にけり」田畑 大有 著、あまとりあ社 刊、初版 1961、絶版
■「うらない百話」田畑 大有 著、らくえん社 刊、初版 1961、絶版
■「うらない四十年」田畑 大有 著、学風書院 刊、初版 1959、絶版
↑■「うらない風流話」田畑 大有 著、学風書院 刊、初版 1958、絶版
■「うらない随筆」田畑 大有 著、近代社 刊、初版 1956/ 2、絶版

■「何処(いずこ)へ ― ある学生易者の手記」佐藤 正忠 著、経濟界 刊、初版 1987/ 7、絶版
↑■「学生易者 ― 放浪体験記 ― 48000 人との対話」佐藤 正忠 著、フェイス出版 刊、初版 1973/11、絶版
■「易と人生 ― 太陽は毎朝昇る」春野 鶴子 著、文藝春秋社 刊、初版 1971、絶版
■「わたしの易」大前 誠二 著、文教書院 刊、初版 1966、絶版
■「あたしは易者」杉田 佳穂 著、東洋書館 刊、初版 1958/ 9、絶版

■「陰隲録(中国古典新書)」石川 梅次郎 著、明徳出版社 刊、初版 1970/ 8、絶版



伝 記 ・ 自 伝
 
 
東洋書院
 
■「乾坤一代男」紀藤 元之介 著、東洋書院 刊、初版 2006/12
■「近代日本企業家伝叢書(2)呑象高嶋嘉右衛門翁伝」植村 澄三郎 著、大空社 刊、初版 1998/11、絶版
■「『横浜』をつくった男 ― 易聖・高島嘉右衛門の生涯(光文社文庫)」高木 彬光 著、光文社 刊、初版 2009/ 9
↑■「大予言者の秘密 ― 易聖・高島嘉右衛門の生涯(角川文庫)」高木 彬光 著、角川書店 刊、初版 1982、絶版
■「易と金と事業と ― 易豪高島嘉右衛門」紀藤 元之介 著、久保書店 刊、初版 1966、絶版
■「複眼の神道家たち」菅田 正昭 著、八幡書店 刊、初版 1987/ 1、絶版

■「易と人生 ― 新井白蛾の生涯とその詩」鈴木 由次郎 著、明徳出版社 刊、初版 1973、絶版

■「九鬼周造の哲学 ― 漂泊の魂」小浜 善信 著、昭和堂 刊、初版 2006/ 4



太 玄 経
 
 
明徳出版社
■「太玄経(中国古典新書)」鈴木 由次郎 著、明徳出版社 刊、初版 1972/ 4、絶版
■「太玄易の研究」、鈴木 由次郎 著、明徳出版社 刊、初版 1964、絶版



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