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●情報の整理を兼ねて、易学・占筮に関する有用な文献を纏めています。 | |||
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謹言で読書の人で「最後の儒者」と言われた漢文学の硯学 公田 連太郎 翁の名著。私の座右の書。 辞占では彖辞・爻辭の意味するところを正しく掴むことから始まるが、いかに全うな書の少ないことか。「易 ― 中国古典選〈1010〉」(本田 濟 著)は、異説違解に細かいばかりで、肝心の訳註は意味が明瞭とは言い難い。判断本はと言えば、加藤 大岳 氏 若かりし頃の「易學大講座」は占例との擦り合わせの点でいかにも頼りない。この「周易講話」は示された卦・爻をこの本の上に置いてみた時の手応えは注釈書の遍歴を重ねて来た人にはよく分かる筈。
第一に、この本は読んでスラスラ分かりやすい。安岡 正篤 氏が「易學入門」に「初学の人が易経を読むのには公田 連太郎 氏の易經講話五巻が最も懇切丁寧である」と書いている通りで、辞義の解説が中心になっている。個々の字義や異説違解に明け暮れた体裁ではない。その解釈もよく咀嚼されていて、平たい言葉で、講義調の血の通った文章になっている。且つ、辞のポイントが繰り返すようにして書かれてある。 故に、その辞がどういうことを言おうとしているのか、どういうことがポイントなのかが非常によく掴める。爻辭だけで平均2ページ以上を費やしている。 その上で、10【天澤履】上爻・58【兌爲澤】三爻などなど古来の異説違解が述べられ、あるいは、17【澤雷隨】各爻・45【澤地萃】三爻など語がどの爻に当たるかが検討されていて、こうだからこう採ると、納得ゆく考え方が提示されている。 そして、特徴は、23【山地剥】二爻のところに「易の言葉は色々な方面から見得るのであり、僅かにその一部分が載せてあるに過ぎず、他の卦を参考にして補ってみるべきである」とあるなど、本書は易占に資すべきことを頭において書かれているということ。これは単なる疏本(= 古典を注釈した書物である注本を更に解釈したもの)ではない。 解釈では、王・程・朱(= 魏の王 弼、宋代の程 頥・朱 熹)の尊重傾向はあるが、それらをスパッと否定して、明代の來 知德・何 楷、清代の王 船山[王 夫之]、あるいは、古学の伊藤 東涯などの解釈を好しとする場合もしばしば。他書の解釈と付き合わせてみると好い。 尚、書き下し文の「なれば」は「なので」の意味。 欠点とすれば、句ごとにしても出典が逐一には記されていない点がある。 それと、解釈の説明の繰り返しが確かにくどいが、これあるが故にこの本は読んで分かりやすいものになっている。 また、校正がなっていない。全文を一字一句チェックしたが、辞の訓み下し、新旧の字体、振り仮名・送り仮名、句読点に不統一や間違いが非常に多い。26【山天大畜】の彖傳は「彖に曰く」が全て「象に曰く」になっている。易書は正確性が問われるだけに残念。 新字・新仮名づかい。仕様の点では、出典の明記は必要最少で、底本の明記はない。 本編の辞・爻の構成は、卦・・・辭・彖傳・象傳ともに原文+書き下し文、解説。爻・・・辭・象傳ともに原文+書き下し文、解説。他の十翼・・・原文+書き下し文、解説。易の原典を網羅している。 第1巻は、序説、「序卦傳」、【乾爲天】〜 第2〜4巻と卦・爻の翻訳と解説が続き、 第5巻では他の十翼を扱っている。 朝日文化賞を受賞している。 |
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字句などの出典・引用を確認したい時に開く訳註書。彖辞・爻辭および十翼の全てについて原文+書き下し文があり、註釈が付され、一冊ものだが資料としては充実している。
字源では最古の部首別漢字字典「説文解字」(許 愼 編、B.C.100)などに拠っていて、甲骨文・金文の知識が反映されておらず、時代的に白川 静 氏は未カバー。 そうした委細に富んではいるが、この本には酷く速成感が拭えない。 肝心の訳注ではよく言葉を選んでいないので、“この経文はこういうことを言っている”或いは“私はこう解釈すべきだと考える”が見えない訳注が目立つ。17【澤雷隨】二爻、26【山天大畜】五爻、42【風雷益】二爻、47【澤水困】二爻、59【風水渙】五爻、62【雷山小過】二爻などなど。史料動員に忙しいまま書いているかのようだ。 その上、研究の熟成が窺えない。古来 根拠の薄いものは、思い付きだったり、それもセンスもない。この本は辞の字句の構造(陰陽・柔剛・位・中・正・応・・・)やそれが書かれることの意味付けなどが多くを占めている。 細かいことを言えば、辞・伝などのふりがながまちまちで(悔/悔い、志/志し、誉/誉れ、当る/当たる、羸(クル)む/羸しむ、望のモチ/ボウ・・・)、同じ句の書き下しが異なっていたり。 それから、易辞の解説にはしばしば「占ってこの爻を得たら」とあるが、全く使えない。 本編の辞・爻の構成は、卦・・・18【山風蠱】であれば「腐敗、腐敗を建て直す事業」とする象意、辞・彖傳・象傳ともに原文+書き下し文、解説。爻・・・辭・象傳ともに原文+書き下し文、解説。他の十翼・・・原文+書き下し文、解説。書き下し文は江戸時代からの慣用に従う。解釈に諸説ある部分では異説を列記。 十翼は巻末に纏められているが、「文言傳」は【乾爲天】・【坤爲地】の項目で扱っている。 前段には、易とは?、易の基本概念、易の歴史、筮法、術語などが30ページ程度に簡潔に纏められている。 本田 濟 氏は京都支那学はえぬきの学者だが、手広くてお粗末。 |
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前者は易を哲理化するものであると共に、謂わば易占の効能書。原文+書き下し文、解説、に50ページを割いている。十翼で取り上げているのはこれと、【乾爲天】・【坤爲地】の項目で扱っている「文言傳」のみ。この本は「易 ― 中国古典選〈1010〉」と比べてもレイアウトにメリハリがあって、「繫辭傳」も読みやすい。 後者の「左 伝[春秋左氏伝]」は易の原典が形作られつつある紀元前8〜5世紀の魯国(= 現在の山東省)の史書で、興亡期のドラマと人間の原型。その所々に挿入されている17の占例から7つを採り上げて、簡単な解説・解釈を加えている。一般書店で取り扱っている易書でこれを扱っているものは少ない。 本編は特記すべきはなく、爻辭の意訳は1〜2行。 辞・爻の構成は、卦・・・原文・書き下し文なしに象意、象傳も同様に意訳、原文+書き下し文、解説。爻・・・判断のみ。 また、前段には易と占筮の基本事項が簡潔に纏められている。 この本は12巻シリーズの一冊で、使用目的を考えた時に構成が中途半端か。 ところで、この本の「解題」にこんなことが載っていて眼を洗うだろう。考古学の発掘と古文字学などの研究により、彖辞の「元亨利貞」は「元(オオ)いに亨(トオ)る、貞(タダ)しきに利(ヨ)ろし」という朱 熹以来の解釈から、現在「元亨」は「大亨の祭り」、「利貞」は「貞(ウラナ)う事柄については行って利(ヨロ)しい」の意味となりで、大祭に際して邪気を祓うことを兼ねて占った時の占断であるという。 それから、この本の改訂増補の時点では 1973 年 湖南省 長沙市の馬王堆から発見された紀元前 168 年の前漢時代の成立と見られる「帛書周易」が最古のテキスト。本書は筮辞と十翼が不可分に結び付いた思想書とするためにその研究成果は反映していないとしている。この点は以上の訳註書のいずれも同じ。
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漢文学の権威らが纏めた訳註書の定番。安価・コンパクトな上に、卦・爻辭および十翼の全てについて原文+書き下し文、解説が収められている。王 弼・程 頥・朱 熹などの “旧説” による解釈。
だが、肝心の卦・爻辭の解説は改訂で洗練された口語訳に改められて、意味するところは明瞭なのだが、さすがに簡潔に過ぎる。彖辞が「鼎、元吉亨」の4文字の 50【火風鼎】の解説はわずか3行。これだと初学者は読んでもピンと来ないだろう。 他説も挙げるが、最少限度。もとは70年以上も前の本である。 底本は「阮刻十三経注疏本」、各伝などについては宋代の朱 熹の「周易本義」を使用。 本編の辞・爻の構成は、卦・・・辭・彖傳・象傳ともに原文+書き下し文、解説。爻・・・辭・象傳ともに原文+書き下し文、解説。他の十翼・・・原文+書き下し文、解説。書き下し文は江戸時代からの慣用に従って、現代語に近い訓み方を採る。 上巻・・・解説、1【乾爲天】〜30【離爲火】。【乾爲天】・【坤爲地】の項で「文言傳」を扱っている。 下巻・・・31【澤山咸】〜64【火水未濟】、「繫辭傳」・「説卦傳」・「序卦傳」・「雜卦傳」。 文字が小さいが、別に、ワイド版も用意されている。 |
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高島 嘉右衛門 著「増補 高島易断」が全5巻として完成した後に、柳田 幾作 氏が初学者向けとして、その64卦の解説の部分だけを拾い上げて圧縮編集し、それに、天気・身上・婚姻・出産・仕官・求事・訴訟・失物・待人・疾病ほかの簡単な判断を併せて一冊にした本。
その64卦の解説は要点のみを要領よく纏めてあり、普段使いをするなら、「増補 高島易斷」よりこちらが便利。但し、当時の旧字・旧仮名づかいであり、所々 耳慣れない言葉のまま。 また、各ページの上の欄は用語集になっていて、卦名文字の起源、三十二対毎二卦同異の概略、彖爻の辞、象義、あるいは十翼中で難しいとされるものなどが問答形式で簡潔に説明されている。 巻末に、附録として八卦の象意、高島 嘉右衛門の略年譜が纏められている。 |
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■「周易釈詁」全2巻、森脇 晧州 著、龍渓書舎 刊、初版 1981/ 9、絶版 ■「易 経(全釈漢文大系〈9〉)」全2巻、鈴木 由次郎 著、集英社 刊、初版 1974、絶版 ■「易 経(中国古典新書)」赤塚 忠 著、明徳出版社 刊、初版 1974/ 3、絶版 ■「周易講義」全5巻、九鬼 盛隆 著、青木嵩山堂 刊、初版 1901?、絶版 ・・・易占での判断を併せたものを含めて汗牛充棟。 |
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