易占機考

●情報の整理を兼ねて、易学・占筮に関する有用な文献を纏めています。
 


サイコロを使った実占・易経
2008/ 3/29
 「易占を始める人に一冊」と言われると悩むが、試しにやってみてとこの本を挙げるかな。これは原文を忠実に翻訳して註釈を付した訳註本というより、示された卦・爻がどういうことを意味するか、どう判断できるか、を簡潔に解説した本で、あらためて読むとポイントよく手堅く纏まっている。
 著者は慶應義塾大学 文学部の教授(専門は西洋哲学・東洋哲学)で、長年 水心会で中国占術を指導する研究家。

 
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  ●立野 清隆 著
●五月書房 刊
●初版 1990/ 5
●355 ページ
●ハード カバー
●2,625円(税込)
 
 「サイコロを使った」なんて安直そうなタイトルになっているが、本編の大部を占める卦・爻辭の解釈はあくまで原文の意味するところを忠実に(自由心象などとして拡げずに)、かつ、判断に資するような、よく錬られた文章になっている。
 特に64卦の解説・占考は(天地の摂理に対する)人事において卦の意味するところや身の処し方などが要領よく標されており、これがこの本の価値だろう。
 爻の解説は、例えば、29【坎爲水】の五爻の「占考」であれば、「九五は剛健中正の徳を持ち、位 正しい六四の部下と協議して、適当なる処置をして、そのよろしきを得たので、次第に危険な状態から脱出して・・・」というように爻の構造から説く。爻には(疑問符付きながら)大吉〜大凶が付されていて、運勢判断の一助になるか(吉凶とは絶対的にあるものではなくて、現状から見て吉か凶かと相対的に見るもの)。
 卦・爻の辞や占考の文言の上に悩める問題を重ねて想像を広げた時に、解決へのベクトルが見出せて初めて筮書たり。学術・実占の両面から信頼が置けて、よく纏まった筮書のため、ベテランの先生もお勧めになる。
 もちろん 350 ページばかりの本だから、特に爻の解説などはその限り。卦・爻辭の解釈なら「易經講話」(公田 連太郎 著/明徳出版社 刊)が非常に適切で分かりやすく、筮の理論なら加藤 大岳 氏の諸書がある。

 本編は、卦・・・辞の書き下し文、解説、占考。爻・・・辞の解釈。

 長い前段には易占の基本事項がよく纏められている。八卦の変化についての解説は割と見かけないもの。また、八卦の取象は資料として便利。筮法も幾つか書かれている。
 欲を言えば、入門書とするなら、易と占筮の解説書と言える「繫辭傳(ケイジデン)」のエッセンスが欲しかった。



易と人生哲学(致知選書)
2008/ 4/13
 終戦の詔勅に修正の筆を入れ、元号「平成」を考案し、政財界の精神的指南役として知られた陽明学・東洋思想の泰斗 安岡 正篤(- マサヒロ)氏。本書は同氏の10回の講話(昭和52/ 5〜54/ 1)を一冊にしたもので、易の思想哲学の方面の入門的な本になる。

 
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  ●安岡 正篤 著
●竹井書店 刊
●初版 1988/ 9
●236 ページ
●ハード カバー
●1,575円(税込)
 
 この本で安岡氏の言いたいことは「易とは立命の学問である」の一語に尽きる。同氏の本には漏れなく“立命のススメ”が付いてくるわけだが、その言葉によれば、「立 命」とは自分で動かし得ない「宿 命」に対して、自分で自分の運命を創造していくこと、と。易も四柱推命も当たる当たらぬのことよりも、運命の法則・理法を学び、占術によって自分の運命を知り、人生を創開していくことが本筋だ、と説く。平たく言うと、易占で宜しくない成り行きが示されたら、それを回避することに努めよ、と。宜しい占示があれば、その状態をより好いものにし、あるいは、長く維持することに努めよ、と。逆に、努力をしないなら、運命がそのまま「宿 命」になるよ、と。「命」の一大原則を説く。
 例えば、来年の受験を問うて合格と示されて、それならもう勉強しなくてもいいやと勉強を止めたら、不合格となるだろう。それは、合格というのは今後もそれまでと変わらない勉強の姿勢とそれによる学力の向上を前提にして示されたものであるから。同様に、受験しなかったら、当然 合格はない。成否の占とはそういうもの。
 また、安岡 氏はしばしば「荀子」大略篇の「善く易を爲(オサ)むる者は占わず」を強調して占筮を酷く軽んじる。そうは言っても、昔も今も人知には限度があるのであり、だから人は悩み、神に霊に問い願う。スキッと考え切れないのも人の常。

 前半は易とは何ぞやとか易の様々な基本概念の解説が中心。立命の要を説く「陰隲録(インシツロク)」を紹介し、その主意はその通りだが、細かいことを言えば、細部が原書と異なる。
 後半は64卦を簡単に解説する。「序卦傳」のように卦の配列による意味関係が中心になっていて、易占で直接 使える内容ではない。

 あとがきに「本書を読み了り、易学に興味を持たれた方は〜「易學入門」(↓)を読まれることをお勧めする」と。
 また、同時代の易についての講演を纏めたものに「易と健康〈上〉易とはなにか」・「易と健康〈下〉養心養生をたのしむ」(ディシーエス出版局 刊)がある。



易 學 入 門
2008/ 4/ 3
 安岡 正篤 氏が戦時中に独り籠もり、日頃 書き溜めたノートを基に、易学・占筮ついて一気に書き上げた一書。宿命論の入る余地は勿論なく、卦・爻辭の解釈にも気宇壮大な哲学的宇宙観が窺える。分類するなら、解説書になるか。

 
明徳出版社
 
  ●安岡 正篤 著
●明徳出版社 刊
●初版 1960/11
●248 ページ
●ハード カバー、外函
●3,675 円(税込)
 
 本編は卦・爻辭の解釈と少しの注釈のみ。過不足なくよく錬られた内容ではないし、量的にもかなり寂しくて、爻辭の解釈は1行で終わるものもある。
 だが、「格物致知・知行合一」を思想とする陽明学者であり、時局も手伝ったのだろう、卦・爻辭ともに解釈が占者に対して行動指針的で、「〜せねばならぬ」の口調と白黒の断が表れている。爻辭では吉とか凶では終わらずに、凶意の爻であれば“どうしたら咎(トガ) 无しとなるか、吉に向かえるか”としばしば前向きなメッセージ的な書き方。例えば、四難卦の筆頭されている 29【坎爲水】の彖辞は「要するに艱難・汝を玉にする。憂きことのなおこの上につもれかし限りある身の力ためさむの概を要する」と締められていたり、57【巽爲風】三爻は、普通なら、謙り過ぎて志 窮する、恥をかく、と判ずるだろうところを、あまり謙らずに主張するところは進んで行けと打開の途を提示する。“立命居士”ゆえに宿命的に物事の確定的な成否を提示する占などにはなっておらず、どこまでも人為の価値を説く。本来、易とはそうした教え導く道具なのかも知れないとこちらは経験上も思う。
 ただ、安岡氏的に卦・爻の意を咀嚼・抽出しているので、易占に使用するには及ばない。
 易説としては王 弼・程 子・朱 子などの“旧説”に対して革命的とも言える一撃を加えた聞 一多(ウエン イトウ)氏の“新説”を頻繁に採り上げている。他方、公田 連太郎 翁「周易講話」からのそのままの受け売りも多く目に付く。
 それと、卦・爻をしばしば国内外の歴史的な事件や人物に例えて語っていて、読んで楽しいものがある。

 前段は、「易の根本思想」として易の思想哲学の面が講じられ、「易経の生成」として易の歴史や卦の構造、筮法、文献案内などが64ページを割いて纏められている。

 原文の扱いは卦のみで、巻末にまとめて収録。
 巻末に易書には珍しく用語のもくじが付いている。



易 占 の 神 秘
2008/ 6/29
 加藤 大岳 氏の言葉を借りれば、新井 白蛾の「易学小筌」以来 200 余年を経て登場した占法家のための入門書。
 著者の熊崎 健翁 氏は明治の“易聖”呑象[高島 嘉右衛門]翁から甥の高島 徳右衛門 氏へ続く高島易の継承者とも言える人物で、加藤 大岳 氏の易学の師にあたる。だから、本書は熊崎 氏の多年の解釈・判断の成果を加えた呑象 翁の「高嶋易断」の袖珍版のようなもの。

 
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  ●熊崎 健翁 著、
 加藤 大岳 校訂
●紀元書房 刊
●初版 1931 秋(絶版)
●334 ページ
●ハード カバー、外函
●4,200円(税抜)
 
 64卦・384 爻について、江戸〜明治と研鑽されて来た解釈と判断を簡潔に纏めている。江戸時代には使われていなかった爻辭、その判断部分[占]は高島 嘉右衛門 翁の手によるものか。卦ごとに最後に占例が付いていて、これは主に高島 徳右衛門 氏のもの。

 前段には、易史、易占の基礎知識、三変筮法の筮法が簡潔に纏められ、熊崎 氏による張 作霖の爆死についてほかの占例が付いている。
 ここで、熊崎 氏は高島 嘉右衛門 翁が判断に変を避ける傾向があったのとは異なって、旧来の三変略筮法[略筮法]を採っており、変の重視を説いている。加藤 氏はここからスタートして、後年 三変筮法の変を否定し、再び略筮法に戻り、の遍歴を辿った。

 本編の辞・爻の構成は、卦・・・辭・彖傳・象傳ともに原文、解説、判断。爻・・・辭・象傳ともに原文、解説、判断。卦の項ごとに最後に占例が付されている。彖傳・象傳を除く十翼は扱っていない。

 尚、熊崎 健翁 氏は今に続く「姓名判断」を創始した人物。明治の代になって庶民が名字を持つようになると姓名判断の流派が乱立したが、熊崎 氏は易学の手法を使って昭和4年に雑誌「主婦の友」で「熊崎式姓名学」を発表し、これが大流行となった。64卦の配列の順番を姓名判断の総画数に使っている。



黄小娥の易入門
2008/ 3/22
 64卦の象意のイメージを具体例で確認したい人に。気軽な読み物。この本から易占の道に入った方も多い 1960 年代前半のベスト セラー本で、採り上げる話題は当時のものだが、中味としての古さはない。

 
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  ●黄 小娥 著
●サンマーク出版 刊
●再販 2004/ 4 ← 初版 1961
●247 ページ
●ソフト カバー
●1,365(税込)
 
 この本は取っ付きにくくて易者の独占だった易占を「コイン6枚で誰でもできる易」にしようという狙いで編集。爻には一切 触れず、卦象のみで占うやり方にしている。
 卦とは、32【雷風恆】なら、外卦【震】の夫は外に出て活動し内卦【巽】の妻は家庭で巽順にする夫婦の意であり、同時に、画象は互いに背中を向けている姿であり、幾つもの卦面がある。だから、卦のみを扱うこの本で採り上げるのはその僅かの卦面であって実用とするには乱暴だし、著名人の占では好いことに書き過ぎているかな、と。それでも、黄 女氏の人柄で、何とも味わい深くて、時には鋭い読みも拝見できる。
 従って、三変筮法や爻辭占には直接 使えない。

 巻頭に筮占についての基本的なことが載っているが、あくまでも読み物のそれ。
 筮を執る前の五つの注意として並べられているポイントに注目。
 それと、コインを使って卦・爻を求める擲銭法(テキセンホウ)だが、6枚のコインで一回で大成卦を求めるやり方は元々あるもの。中国古来の三文占は本筮法と同じく3枚のコインを6回 振って大成卦を求める。

 この本が広く注目されるようになると、この大ぶりな手法に対しては様々 批判があったようだ。易占を修めた者、特に加藤 大岳 氏に学んだ者からすればそんな爻無視の二変筮のような技法はないわけだから。当時はコインを使用することさえ批判を受けた。だが、この本が多くの易占ファンを作った功績は顕彰されてよく、今日の状況を見渡すのみ。
 黄 女氏は加藤 大岳門下、紀元 元之介 氏のお弟子で、「ナゾの美人易者」というふれ込みで当時はメディアに引っ張りダコ。出版翌年には大映で「B・G物語 易入門」という映画が作られた。



易學案内 ― 皇極経世書の世界
2008/11/ 7
 「〜案内」とあるように周易に関わる事柄を広く薄く扱っている。繋がりの薄い三つの章で成っていて、最後の章の、国内には資料が乏しい「皇極経世書」についての記述(約20ページ)がこの本の唯一の買い。

 
泰占会倶楽部
 
  ●川嶋 孝周 著
●明徳出版社 刊
●初版 2006/ 9
●325 ページ
●ハード カバー
●4,200(税込)
 
●第一章 /易學案内
 概ね用語集、易史。ただ、用語一つ、そのポイントを押さえておらず、内容らしい内容がない。なぜか仏教や道教の用語・人物までダラダラ並べているのには閉口する。古今の占例が少し。高田 淳 氏などの研究成果か、量子論と易の世界観の対比などもサラッと。
 また、占筮の基本知識も述べているが、筮法など解説が卦・爻を出すまでで終わっていて判断のことについては一切 触れていない。

●第二章 /易 経
 卦については辞・彖傳・象傳を、爻については辞を、全ページの半分を割いて解説。大まかな意味のみで、字句に忠実にでもなく、判断も記されていない。

●第三章 /皇極経世書の世界
 宋代の象数易を代表する邵 康節の「皇極経世書」の主要内容を解説している。この象数易の説は図象と数で宇宙・森羅万象の生成過程を解き、「元会運世年」、つまり、元(129,600 年、天地の終始)・会(10,800 年)・運(360 年)・世(30 年)の大小の時間区分を卦に置き換えて、その期間の動勢を示すもの。干支は月の運行軌跡を基に作られたが、西暦 2008 年を干支で「戊子」とするのはここから来ている。
 それで、現在は、7番目の午会の、その12番目の乙亥運(⊂【澤風大過】)に当たり、1744 年からの 360 年間の運卦は 44【天風姤】で、異文明との危険な遭遇がキー ポイントになるのだと。2004 年からの10年卦は【火水未濟】。
 最後に、2004〜2023 年の各年の動勢を占うとしているが、何故か第二章と同じ文章を50ページも連ねてそれだけで、判断は皆無。年と卦の対照表を一つ書けば済む話だ。ちなみに、2008 年は【雷地豫】、彖辞「豫は、侯(キミ = 君主)を建て師(イクサ)を行(ヤ)るに利あり」。確かに日本やUSAでは「侯」が替わった。



易の効用 ― 運命開拓法(高木彬光 易占集1)
2008/ 4/25
 人気推理作家で、易および占術全般のたしなみもあった高木 彬光 氏の観象が分かる。
 
東洋書院
 
  ●高木 彬光 著
●東洋書院 刊
●再版 2006/ 1 ← 初版1963/ 6
●223 ページ
●ソフト カバー
●1,470 円(税込)
 判断的な内容というより大振りな卦・爻の解釈本だが、学者でもないし、首っ引きで原典解釈に取り組んだような経験は窺えない。
 その上、締め切りのコラムを急ぐようにそそくさと書いていて、解釈・判断のキメが粗い。例えば、5【水天需】上爻の辞「速(マネ)かざるの客 三人 有って来る」が全くのピンチであるような書き方で終わっているが、これは三人の客に敬意を払ってそれに従えば、穴の中に陥っている我が身も吉に転じる、と続くことはご承知の通り。
 だから、64卦と各爻についてこんなイメージ(もある)かなぐらいの扱いで読むもの。

 前段には、易と無関係のエッセー、占筮についてのごく基本的な事項、八卦の取象、計39ページ。
 本編には、卦・爻についての解釈、所々に有名どころなどの占例が入る。原文の掲載はない。十翼も扱っていない。

 この本は43年を経て著作集「高木彬光 易占集」の一冊として復活した。だが、九星も方位学もこの「易占集」シリーズに含まれていて、東洋書院ともあろう出版社が。
 高木 氏は方位学が好きだった。



その他の入門文献
 
 
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■「高島周易講釈 ― 占断自在」高島 嘉右衛門 述・菊池 暁汀 編、原書房 刊、初版?
■「増訂 易経」三浦 國雄 著、 東洋書院 刊、増訂 2006 / 6 ← 初版 1998
■「易と健康〈下〉養心養生をたのしむ」安岡 正篤 著、安岡正篤講話選集刊行委員会 編、ディシーエス出版局 刊、初版 2001/ 3
■「易と健康〈上〉易とはなにか」安岡 正篤 著、ディシーエス出版局 刊、初版 2001/ 1
■「易経講座 ― 運命を開く知恵 人間学講話」安岡 正篤 著、致知出版社 刊、初版 2008/ 4
■「現代の易」基礎編・占断編・占例編、横井 伯典 著、日本開運学会 刊
■「新・易入門 ― あなたの人生を予言する」横井 伯典 著、久保書店 刊、初版 1972、絶版
■「あたる易」横井 伯典 著、日本開運学会 刊、初版 2010/ 9
■「あたる易・あたらぬ易 ― <易入門> のまちがいを正す」横井 伯典 著、久保書店 刊、初版 1962、絶版

■「ビジネスマンのための易占」、竹中 利貞 著、碧天舎 刊、初版 2004/ 2
■「現代易入門 ― 開運法」井田 成明 著、明治書院 刊、新訂版版 1999/10 ← 1980/ 9
■「易・人生の知恵 ― 東洋の考えかた 」春野 鶴子 著、サイマル出版会 刊、初版 1973、絶版
■「易占七六八の答」黄 小娥 著、実業之日本社 刊、初版 1962、絶版
■「易の処世哲学(東洋易学・運命学大系〈2〉)」遠藤 隆吉 著、慧文社 刊、2008/ 6 ← 早稲田大学出版部 刊 1925

【運命学全般】
■「中国運命学入門」池田 光 著、春秋社 刊、初版 2000/10
■「東洋占術の本 ― 運命と未来を見通す秘術の大系(New sight mook ― Books esoterica)」学研 刊、初版 2003/ 5、絶版



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