山 風 蠱

被曝の累積が13.3mSv で癌の発症が1.04倍!
2011/ 9/23
 「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査(第IV期調査 平成17年度〜平成21年度)」について、以下、「週刊SPA!」2011/ 8/26 より。若干、補筆。

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 「今までICRP[国際放射線防護委員会]も含めてですね、全然データがないんです」
 8月1日、参議院復興特別委員会(YouTube)で質問に立った自由民主党の古川 俊治 議員の声だった。そして、こう続けた。
 「実際、長崎、広島、原爆の問題。その後、チェルノブイリが1回あっただけです。60年前ですね、原爆は。その頃の科学的知見は十分ではなかった。チェルノブイリでは状況もあってなかなかモニタリングが出来なかった。殆ど世界にデータがないんです。何も分かってないのが現状なんですね」
 その通り!と相槌を打った。だから、政府、経済産業省、原子力委員会、東京電力は、いたずらに「ただちに健康に影響はありません」と繰り返すのでなく、データを公表し、正確には分からないと告げ、避難については個人の判断に委ねるべき、と思って来た。
 ところが、古川 議員からは意外な言葉が飛び出した。
 「22万 7000 人ばかりを調査した、立派な調査があります」
 それは、文部科学省の委託を受けた(財)放射線影響協会が作った「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査(第IV期調査 平成17年度〜平成21年度)」である。原発で働く人(解析対象者は 203,904 人。全員男性)を対象にした外部被曝の追跡調査。世界で同様の調査は行われているが、戸籍制度がしっかりしている日本のものが実は最高に優れているという。
 その資料を持ち出して、古川 議員は何を問おうというのか。
 「放射線従事者の方々は長期 被曝しておられます。一般の方々と比べた場合、癌のリスクは1.04倍になります。明らかに偶然では説明できない差をもって、放射線従事者の方が、癌がたくさん発生しているんですね」
 原発などで働く放射線業務従事者の通常の放射線被曝限度は、1年で50mSv、5年で 100 mSv と定めている。であれば、少なくとも限度以内では安全、と思う。ところが、1.04倍。100 人に4人は癌の発症が増える(食道、肝臓、肺で有意差が認められる)。
 古川 議員は更に決定的な数字を突きつける。
 この放射線従事者の方々の平均の被曝線量は累積で13.3mSv です。これは年間の値でなくて累積です。20mSv 以下ですね」
 そして、労災認定の例を挙げる。
 「過去に癌を発症して労災認定をされた方は10人いますが、最も少ない人は5ミリの被曝だったんですよ。政府が被曝との因果関係を認めてるわけですよ」
 5mSv の労災認定とは、中部電力 浜岡原発で働いていた孫請け会社元社員の嶋橋 伸之さん(当時29歳)が慢性骨髄性白血病で91年に死亡し、94年に認定されたものだ。嶋橋さんの放射線管理手帳によれば、約8年10ヵ月で累積被曝線量は50.93mSv。従事年数で累積線量を割れば、約5.6mSv となる。
 では、文科省が決め、内閣参与の東大教授が涙ながらに辞任した「校庭利用限度20mSv」は?
 「5mSv の人には全員 補償するようになりますが、いいんですか?」
 最も大きな問題は原子力安全委員会が持っていた緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム[SPEEDI]を5月2日まで公表しなかった点だ。
 細野首相 補佐官(当時)が「(公表すれば)パニックになることが懸念された」と言ったことを指摘し、古川 議員は「故意なんです。被害を知らなかったとすれば無能だが、人々が死亡するということが分かっていたなら、刑事責任を問われる問題ですよ」と責め立てた。
 菅 政権が無能かどうかなど問題ではない。原発事故への対応は犯罪だった。これが核心である。

 【医師である古川 議員が指摘する隠された問題】
 参院議員会館へ古川 議員を訪ねた。医学博士でありながら司法試験に合格し、弁護士も務めることで話題になった有名人だ。(注:慶應義塾大学 医学部 教授も兼ねる)
 議員は、放射線影響協会がまとめたデータと政府が安全指針とするICRPのテキストを並べ、「19年間調査した立派な資料です」と、国会答弁と同様に言った。謂わば、政府は国際基準よりずっと詳細なデータを持ちながら、低線量被曝のデータに弱いICRP[国際放射線防護委員会]ばかりを根拠にして来た。
 古川 議員は「普通の議員では、放影協会のデータは、読み解くことが出来ない」とも言う。議員は、120 ページにおよぶ平成22年度の調査書を繰りながら、放射線による有意な(偶然ではない)癌発生との関連を「タバコと飲酒のせいにしている」と憤る。
 放射線をたくさん浴びた作業員は喫煙と飲酒量が多いという馬鹿げたグラフがあるのだ。59ページには「累積線量との関連が認められた食道、肝臓および肺の悪性新生物(= 癌のこと)に、喫煙等の生活習慣が交絡している可能性も否定できない」とある。つまり、放射線と癌の関係は低線量でも認められるのに、それを生活習慣のせいにしている。それこそ、無知か故意かはわからないが、閣僚たちは原子力村がねじ曲げた結論を基に「健康への影響はない」と言い続けているのだ。

 菅 首相は「(SPEEDI の存在を)知らなかった」と応えた。
 今後の福島県の調査で数十年後 癌患者が増える、その補償をどうする、との問いに海江田 経産相は驚くべき答弁をした。
 「訴えてください」と言った
のだ。
 議論が噛み合っていなかった、とは私も感じた。だが、それは政府側が自分の頭で考えず、原子力専門家の意見を鵜呑みにしているからだ。医師でもある古川 議員は非常に重要なことを言った。
 従来ないとされていた低線量被曝の影響データは、実は日本にある。あるのに国は目を留めず、この日のやり取りは、どの新聞もTVも取り上げていない。

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 やり取りの書き出し1
 古川 俊治 議員の年間許容線量20mSv への反対意見(2011/ 5/11)

 こちらはこの国会のやり取りを見ていた。
 古川 議員の問題提起を改めて整理してみると、まず、政府も原発で食べている学者も、年間被曝線量 100 mSv 以下の低線量被曝のことに問題を矮小しているし、ゴマカシを続けている。年間 100 mSv で発癌リスクが0.55%増すだけだ(広島・長崎の原爆投下については、被爆量を 1,000 mSv と見積もって、5.5%発癌リスクが高まった、としたが、実際にはその半分の 500 mSv しか浴びていなかったことが明らかに。また、これは原爆投下5年後からの調査で、その以前に死んだ者は多い)、20mSv 以下なら全く問題にならない、と。原子力産業のために存在するICRPの言説を使って来た。
 ところが、その低線量被曝だけを考えても、年間でなく、累積の被曝量が13.3mSv(外部被曝の平均値)で癌の発症が1.04倍だった、と。しかも、晩発性だから30年を見るべきところを、19年でこの結果。累積被曝量[横軸]と癌の発症数[縦軸]とはキレイに正比例するので、10mSv で 100 人に3人以上が、30mSv なら1/10人が被曝によって癌を患う可能性がある。
 被曝した[しつつある]人の分母を見れば、大変な事実だ。定説の「累積 100 mSv 未満では発癌リスクは認められない」どころか、これなら3割以上が発症という計算になる。「癌は老化現象」と言い出したのが誰か知らないが、戦後、癌の発症率が3倍にもなったのは、大気圏内核実験、54基もの原発の乱造、医療被曝と、被曝と大きな関係があるのではないのか?
 同様に発癌リスクのある喫煙や飲酒と違って、汚染環境にある限り、外部・内部からの被曝は毎秒・毎食ごとにカウントされる。
 低線量被曝のリスクを明らかにした点で、これは価値のある指摘。


 尚、自民党の河野 太郎 議員も「昨年の文科省調査によると年間20ミリ シーベルト は危ない」としてブログに古川 議員のこの指摘を書いている。以下。

 文部省が委託した財団法人放射線影響協会「原子力発電施設等放射線業務従業者等に係る疫学的調査」(平成22年3月)によると、
 一、食道がん(p=0.039)、肺がん(p=0.007)、肝臓がん(p=0.025)、非ホジキンリンパ腫(p=0.028)、多発性骨髄腫(p=0.032)で、累積線量とともに有意に増加する傾向が認められる。その増加は累積10ミリ シーベルト から現れている。
 つまり年間20ミリ シーベルト どころではなく、累積で10ミリ シーベルト からこうした癌により、健康に影響が出ているということを、文科省の調査が示している。
 二、全悪性新生物の死亡率は、累積線量とともに有意に増加する傾向を示し(p=0.024)、死亡率の増加は、累積10ミリ シーベルト 以上から認められ(観察死亡数/期待死亡数(O/E 比):1.04)、累積20ミリ シーベルト 以上では、更に高まっている(O/E 比:1.08)。
 繰り返すが、文科省の調査によると、年間10ミリ シーベルト ではなく、累積して放射線量が10ミリ シーベルト を超えたあたりから、癌による死亡率が増えている。
 三、白血病を除く全悪性新生物の死亡率も、累積線量とともに有意に増加する傾向を示し(p=0.024)、死亡率の増加は、累積10ミリ シーベルト 以上から認められ(O/E 比:1.04)、累積20ミリ シーベルト 以上では更に高まっている(O/E 比:1.07)。



 こちらは 3/12〜3/17 の4日間、イヤイヤ、福島第一原発から35kmのいわき市 四倉高校の体育館に居たが、3/14 の3号機の巨大爆発(憂鬱なMOX燃料を含む使用済み燃料の、おそらく臨界爆発)で南へ大量に流れた放射性プルームを被った。これは 3/15 4:00 にはいわき市を通過。すぐに文部科学省?の職員がやって来たので、その地区の区長が実際ここはどんなことになっているんだ、と質すと、空間線量が0.3mSv/h だと答えている。こちらは区長にμSv/h の間違いではないのかと聞くと、mSv/h と言っていたと言うし、メモ書きにもそうなっていた。福島第一原発から北西方向の飯舘村や福島市では暫くそんなものではなかったようだから、間違いないだろう。勿論、体育館は窓を閉め切り、入り口のドアは二重で、こちらも神経質にしていたが、トイレは外だし、ずっと中にいるわけにも行かない。
 5月からは広野町に何度も戻って津波を喰らった実家の片付けを続けた(津波を受けた四倉の人は 3/15 も昼間は片付けに家に戻っていた)。
 それに、検査をしても、放射性ヨウ素はもう検知できないし、福島県ではα線・β線の被曝を調べる様子がない。体内のγ線を調べるホール ボディ カウンターも数分しか割り当てられない。被害者は常にやられ損。
 こうして自分の被曝の具合が分からないから、イラ立っている。とにかく、被曝は1μSv でも少ない方がよい。



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