山 風 蠱

バンダジェフスキー「人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響」
2012/ 6/19
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 先日 来日したベラルーシのゴメリ医科大学 元学長、ユーリ=バンダジェフスキー博士の論文「人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響 ―チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ―」より。
 この論文は、チェルノブイリ原発事故の後、大学病院で大勢の被曝者を診察し、亡くなった人々の解剖を行い、更に、動物実験も行って、体内に入ったセシウムによる被曝障害の実態を纏めたもの。体内に入ったセシウムによる被曝は低線量でも危険、と結論付けており、セシウムによる内部被曝の研究分野では第一級の文献となっている。
 ベラルーシのゴメリ州は最も放射能汚染を受けた地域であり、汚染レベルは日本の福島県に相当。面積は福島県の約3倍。

 さて、この論文の要点を紹介しようと思ったら、この内容を圧縮した「人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響 ―チェルノブイリの教訓 セシウム 137 による内臓の病変と対策―」(茨城大学 名誉教授 久保田 護 訳)をベースにして、既に要約されている方が複数ネット上に。それならばと、よく整理した上で転載させて頂きます。仮設住宅にも配布。
 以下、※ はこちらによる補筆。

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 セシウム摂取による内部被曝の研究が殆どない中、バンダジェフスキー博士は、大学病院で死亡した患者を解剖し、心臓、腎臓、肝臓などに蓄積したセシウム 137 の量と臓器の細胞組織の変化との環境を調べ、体内のセシウム 137 による被曝は低線量でも危険との結論に達した。

【体全体への影響】
●セシウム 137 の体内における慢性被曝により、細胞の発育と活力プロセスがゆがめられ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる。大抵 幾つかの器官が同時に放射線の毒作用を受け、代謝機能不全を引き起こす。
●セシウムの濃度に応じて、活力機構の破壊、たんぱく質の破壊が導かれ、組織発育が阻害される。
●セシウムの影響による体の病理変化は、合併症状を示し、長寿命体内放射能症候群(SLIR)と言われる。SLIR は、セシウムが体内に入った時に現れ、その程度は入った量と時間とに相関する。
●SLIR は、血管、内分泌、免疫、生殖、消化、排尿、胆汁の系における組織的機能変化で明らかになっている。
●SLIR を引き起こすセシウムの量は、年齢、性別、系の機能の状態に依存するが、体内放射能レベルが50 Bq/kg 以上の子供は器官や系にかなりの病理変化を持っていた。心筋における代謝不調は20 Bq/kg で記録された。
汚染地帯、非汚染地帯の双方で、わずかな量の体内セシウムであっても、心臓、肝臓、腎臓をはじめとする生命維持に必要な器官への毒性効果が見られる。
●セシウムの影響は、ニコチン、アルコール、ハイポダイナミアと相乗して憎悪される。

【心臓への影響】
●細胞増殖が無視できるか全くない器官や組織(心筋)は、最大範囲の損傷を受ける。代謝プロセスや膜細胞組織に大きな影響が生じる。生命維持に必要な多くの系で乱れが生じるが、その最初は心臓血管系である。
●セシウムの平均蓄積量 30.32 ± 0.66 Bq/kg にあるゴメリの3歳から7歳の子供は蓄積量と心電図に比例関係があった。
ゴメリ州住民の突然死の99%に心筋不調があった。持続性の心臓血管病では、心臓域のセシウム 137 の濃度は高く、136 ± 33.1 Bq/kg となっていた。
●首都ミンスクの子供は20 Bq/kg 以上のセシウム 137 濃度を持ち、85%が心電図に病理変化を記録している。ミンスクの子供には希れに体内放射能が認められない場合もあるが、その25%に心電図変化がある。このように濃度が低くても、心筋に重大な代謝変化を起こすのに十分である。
平均40〜60 Bq/kg のセシウムは、心筋の微細な構造変化をもたらすことが出来、全細胞の10〜40%が代謝不全となり、規則的収縮が出来なくなる。

【血管系への影響】
●血管系が侵され、高血圧が幼児期からも見られることがある。また、15キュリー/km² の汚染地の子供の41.6%に高血圧の症状が見られた。
  ※ 1キュリー = 3.7×1010ベクレル。
●セシウムは血管壁の抗血栓活性を減退させる。
●血管系の病理学的変化は、脳、心臓、腎臓、その他の機関の細胞の破壊を導く。
●体内のセシウム濃度の高い子供の間で、白血球の数の減少が見られた。同時にリンパ球の数が増大した。動物実験では、絶対的赤血球数と相対的核好中白血球の数の減少が起きた。
●40キュリー/km² 以上の地域から汚染の少ない地域に移住した子供の骨髄球の生理状態が回復したことは注目に値する。

【腎臓への影響】
●腎臓もセシウムの影響を強く受ける。腎臓は排出に関与していて、 ゴメリ州の大人の死者の腎臓のセシウム濃度は 192.8 ± 25.2 Bq/kg、子供の死者では、645 ± 134.9 Bq/kg だった(※ セシウムは腎臓・膀胱ほかの尿路系に多く集積)。
●セシウムは腎臓内のネフロン組織細官や糸球体、ひいては腎臓機能を破壊し、他の器官への毒作用や動脈高血圧をもたらす。ゴメリにおける突然死の89%が腎臓破壊を伴っている。
●血管造影で組織を検査すると、放射線による腎臓の症状は特徴がある。また、腎臓では病気の進行が早く、悪性の動脈高血圧がしばしば急速に進む。2〜3年すると、腎臓の損傷は慢性腎機能不全、脳と心臓との合併症、ハイパーニトロゲンミアを進展させる。

【肝臓への影響】
●肝臓においては、毒性ジストロフィーが増進し、細胞たんぱく質の破壊や代謝形質転換が起こり、胎児肝臓病や肝硬変のような厳しい病理学的プロセスが導かれる。
●肝臓の合成機能の不調により、血中成分の合成に変化が生じる。30 Bq/kg 以上の子供の体に肝臓機能の不調が見られた。更に、膵臓機能の変化も観察されている。
ゴメリ州で、急死の場合に肝臓を検査したところ、セシウム 137 の平均濃度は28.2 Bq/kg で、この内、4割に脂肪過多の肝臓病か肝硬変の症状があった。
免疫系の損傷により、汚染地ではウィルス性肝炎が増大し、肝臓の機能不全と肝臓ガンの原因となっている。
●セシウムは胎児の肝臓病を引き起こし、その場合、胎児は肝臓に限らず、全身の代謝の乱れが生じる。

【胃腸への影響】
●子供の体内にセシウムが(19.70 ± 0.90 Bq/kg)が長期間 入ると慢性胃腸病を起こし、自立反応のハイパーシンパチコトニー変化に現れる。

【甲状腺への影響】
●セシウムは、甲状腺異常にヨウ素との相乗関係を持って寄与する。大量の甲状腺刺激ホルモンが出ることによって甲状腺を刺激し、小胞上皮を増殖させ、ガン化に繋がる。
●セシウムが長期間 体内にあると、甲状腺の回復プロセスが十分な値にならず、細胞分化が壊され、組織細胞要素が免疫系のアンチエージェントに転化しやすくなる。免疫反応の上昇に伴い、自己抗体と免疫適格細胞が甲状腺を痛め、自己免疫甲状腺炎や甲状腺ガンの原因となる。

【母体と胎児への影響】
●体内のセシウム濃度が増すとコルチゾールのレベルも高まり、胎児が子宮内で病気になりやすい。
●セシウムは女性の生殖系の内分泌系機能の乱れをもたらし、不妊の重要因子となり得る。また、妊婦と胎児両方でホルモンの不調の原因となる。
妊娠すると、セシウム 137 は母体内に顕著に蓄積する。実験動物では、着床前の胎児死亡の増加、骨格系形成の不調、管骨の成長遅れと形成不全が現れた。
●セシウム 137 は基本的に胎盤に蓄積するものの、胎児の体内には入らないが、母乳を通じて母親から子供に汚染が移行する。多くの系がこの時期に作られるので、子供の体に悪影響を与える。
●子供とティーン エージャーの血液検査で、赤血球、白血球、血小板の減少、リンパ球の増大が見られた。但し、移住した子供に、骨髄の生理状態の回復が見られた。
●月経サイクルの不調、子宮筋腫、性器の炎症も見られる。

【免疫系への影響】
セシウムは免疫の低下をもたらし、結核、ウィルス性肝炎、急性呼吸器病などの感染病の増加に繋がっている。
●免疫系の障害が体内放射能に起因することは、中性白血球の食作用能力の減退で証明されている。

【神経系への影響】
●神経系は体内放射能に真っ先に反応する。脳の各部位、特に大脳半球で生命維持に不可欠なモノアミンと神経刺激性アミノ酸の明らかな不釣合いが起こり、これがやがて様々な発育不良に反映される(※ → 無脳症など)。
●生命維持に不可欠なアミンや神経に作用するアミノ酸の内部被曝による変動は外部被曝と比べて顕著である。
●セシウム 137 の体内量と自律神経系の機能障害は相関する。
●動物実験で発情期のメスに神経反応の組織障害が起こる。
●ウクライナの学者は、大脳の差半球で辺縁系小胞体組織の異常があると述べている。

【視覚器官】
●体内放射能レベルの高い子供(ベトカ郡、15〜40キュリー/km²)では、視覚器官の病気、特に角膜の病状を伴う眼レンズの変化の頻度が高い。ベトカとスベチロビッチに住んでいる子供では、視覚器官の変化はそれぞれ93.4%と94.6%だった。
体内のセシウム 137と白内障発生率の間に正比例関係が明瞭に見られた。

【男女差】
セシウムは男性により多く取り込まれやすく、女性より男性により強い影響が出ており、より多くのガン、心臓血管不調、寿命の低下が見られる。

【疫学調査】
●1976 年と 1995 年のベラルーシの比較。悪性の腎臓腫瘍が男4倍以上、女2.8倍以上。悪性膀胱腫瘍が男2倍以上、女1.9倍以上。悪性甲状線腫瘍が男3.4倍以上 女5.6倍以上。悪性結腸腫瘍は男女とも2.1倍以上。
ゴメリ州では、腎臓ガンは男5倍、女3.76倍。甲状線ガンは男5倍、女10倍となった。
●1998 年のゴメリ州での死亡率は14%に達したが、出生率は9%(発育不全と先天的障害者含む)だった。妊娠初期における胎児の死亡率がかなり高かった。
●セシウム汚染地の住民の先天的進化欠損が毎年 増大している。ここでは多因子欠損が第1位である。

【セシウム排出製剤】
●セシウムの排出に、カリエイ土を加えたペクチン製剤のペクトパルは最も将来性がある製剤の一つである。しかし、セシウムが人体に入るのを防ぐ方が、それを排出したり乱れた代謝を正常にするより容易なことを心に留めるべきである。

【動物実験】
●900〜1,000 Bq/kg のセシウム蓄積は40%以上の動物の死を招いた。

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 原子力の推進が目的のIAEA[国際原子力機関]は、チェルノブイリ原発事故による健康被害は子供の甲状腺癌だけ、死亡者は約 4,000 人との主張を続けている。



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